あかいらか

第72回埼玉県立熊谷高等学校卒業証書授与式 式辞

本日ここに、第七十二回埼玉県立熊谷高等学校卒業証書授与式が開催できましたこと、誠に感謝しております。

 卒業証書を授与しました三百十二名の生徒諸君、卒業おめでとう。三年前、感激の合格発表から、あっという間の三年間だったと思います。高校生活もいよいよ今日が最終日。思い出に残る、充実した高校生活だったのではないでしょうか。

 さて熊谷高校に入学して、最初に経験するのは、上長瀞駅までの四十キロハイク。文字通り、足が棒のようになって歩き切った満足感は、何物にも代えられない想い出だと思います。夏は、新潟県・東の輪海岸での臨海学校。遠泳をこなした後、口に入れてもらった氷砂糖の味、浜で迎えてくれた校歌の大合唱を覚えていますか。熊谷高校では、二つの行事を経て、初めて熊高生になると言われています。文化祭、体育祭、様々なスポーツ大会など、熊谷高校に連綿と続く学校行事、部活動に情熱を傾けてきた生徒も多いことでしょう。三年間で、本当に逞しく成長しました。一生ものの友達はできたでしょうか。そして現在、大きな試練である大学入試にチャレンジしていますが、まだ希望を叶えることができず、厳しい現実に直面している諸君もいるでしょう。決してあきらめずに頑張ってください。

 時代は、大きく変わっています。グローバル化の進展で、多くの外国人が日本を訪れ、昨年は、熊谷市もラグビーワールドカップで大いに盛り上がりました。その一方で、新型コロナウイルスのような病気が、瞬く間に世界中に広がり、大変なことになっております。大きな津波で、たくさんの方が犠牲になった東日本大震災は、わずか九年前の三月十一日です。令和が始まったのは、昨年五月のことですが、ここ最近でも台風十九号の被害など、どんな災害が起こるのか分からない状況があります。

 かつてないペースで進む高齢化、人口減少、多くの仕事がAI(人工知能)に代替されるかもしれない時代、これからの時代は、先の見えない社会が予想されます。熊谷高校で培った、「質実剛健」「文武両道」「自由と自治」の教育は、諸君が将来、社会人となり、その中心となって活躍できる下地を十分に鍛えていると考えています。人生のどこかで、大きな転換点を迎え、大きく躍進するべき時期が来た時、その壁を乗り越える力は十分育っていると思います。激動の時代を逞しく、太く、強く生きていって欲しいと願っています。また、それができると確信しています。

 今日は、二学期終業式で話したことで、今日配られるPTA新聞にも書いたことを話します。今日のこの日に相応しい内容だと思います。

 スタンフォード大学クランボルツ教授の「計画的偶発性理論」という話です。「個人のキャリアの八割は予想しない偶発的なことによって決定される」というものです。皆さんは、将来の夢は何か、職業はどうするか、どの大学に行くかと真剣に悩んでいると思います。しかし、私の経験でも希望通り夢をかなえている者はそれほど多くありません。むしろ、昔の姿から想像もつかない職業に就いている者が多いように感じます。夢に向かって努力を続けることは大切ですが、どんなに頑張っても人生には予想もしない曲がり角が何度も待ち受けており、思う通りに行かないことが多いものです。

 今、皆さんは人生最初の大きな分岐点にあります。希望通りの進路を決めた者、一年後の逆転を期す者と様々です。力及ばず浪人生活を選択した者も、後々人生で最良の判断であったと思える時が必ず来ると思います。遠回りのようでも人生のほんの一部、実りの多い経験となると信じています。大切なのは、自分の決断を後悔しない事。決断を前向きなチャンスに変えるのは、気持ちの持ち方次第だと思います。人生の曲がり角を、喜んで受入れる、前向きなチャンスとしてとらえることが大事だと思います。

 偶然の機会を飛躍のチャンスに変えるための行動指針として、クランボルツ教授は、五つをあげています。

 ①好奇心(新しい学びの機会を探し続ける)

 ②持続性(失敗に屈せず続ける)

 ③楽観性(必ず上手くいくと前向きに考える)

 ④柔軟性(一つに拘り過ぎないで時には自分の信念や行動を大胆に変えてみる)

 ⑤冒険心(リスクが予想される場面でも敢えて行動を起こしてみる)

の五つです。

 夢を諦めないで努力を続けることは大切ですが、新しい事を怖がらず、失敗を怖れず、めげずにすぐ行動に移す習慣を持つこと。興味のアンテナを高く自分の成長に有益な情報や人との出会いを逃さない、そうした積み重ねが人間の厚みを作ると思います。人生を振り返って「あの時の偶然があったから、今の自分があるのだ」と言える時が必ず来ると思います。

 時代は大きな変わりつつあります。熊高で身に付けた人間力を信じて前向きに生きて欲しいと願っています。検討を祈っています。

 結びに、これまで生徒を厳しくもまた温かく見守っていただきました本校教職員の皆様方に改めてお礼を申し上げ式辞といたします。

 令和二年三月十四日   埼玉県立熊谷高等学校長 武内 道郎